読むのとオーディブル、どっちが向いている?
この本、読むかAudibleで聴くか正直かなり迷いました。
社会派ミステリでテーマも重そうだし、文字でじっくり読むべきか、それとも音声でも大丈夫か。
実際にAudibleで『震える天秤』を聴いてみたので、「どっちが向いているか」を判断する材料になる程度に、正直な感想をまとめてみました。
作品の概要
- 作品名:震える天秤
- 著者:染井為人
- ジャンル:社会派ミステリー
- 朗読者:大久保多聞
- 再生時間:11時間31分
横溝正史ミステリ大賞出身の染井為人氏による、社会の歪みを真正面から描いた作品です。
再生時間はやや長めですが、章の区切りが分かりやすく、途中で止めやすい構成だと感じました。
あらすじ(軽いネタバレあり)
※ここからは、物語の導入と方向性がわかる程度の軽いネタバレを含みます。
物語は、ある凄惨な交通事故から始まります。
高齢男性が運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員を死亡させてしまう事故。
加害者はアクセルとブレーキの踏み間違いを主張し、世間でも「高齢ドライバー問題の悲劇」として処理されそうになります。
しかし、この事故に違和感を抱いたフリージャーナリストの俊藤律は、独自に取材を開始。
彼は高齢ドライバー問題を追うため、加害者が住んでいた福井県の山奥、埜ヶ谷村へ向かいます。
取材を進めるうちに、律は気づきます。
この村は、何かを隠している。
閉鎖的な空気
村人たちの不自然な結束
被害者側にもある歪み
このあたりから、「これは軽く聴き流せる話ではないな」と感じました。
やがて律は、単なる事故ではなく、村のしきたりや過去の因縁が絡んだ「ある計画」の存在に近づいていきます。
そして終盤、ジャーナリストとして、そして一人の人間として、重い選択を迫られることになります。
朗読者(ナレーター)情報
朗読を担当しているのは、大久保多聞さん。
同じく染井為人作品の『歌舞伎町ララバイ』なども担当しているナレーターです。
著者の世界観を理解した読みで、作品の雰囲気を壊さない朗読だと感じました。
声・朗読の感想
声質は低めで安定感があり、全体的に落ち着いたトーンです。
- 聞き取りやすさはかなり高い
- 感情表現は派手すぎず、要所でしっかり伝わる
- 登場人物の演じ分けも自然
「声が主張しすぎない」ので、物語そのものに集中できます。
個人的には、この抑えた朗読が「震える天秤」の重たいテーマに合っていました。
Audible版で良かったと感じた点
まず、登場人物の感情の揺れが声で伝わってくる点。
特に、閉鎖的な村の空気や、主人公・律の焦りや迷いは、音声の方が生々しく感じられました。
また、派手なトリックで引っ張るタイプのミステリーではないため、家事や移動中の「ながら聴き」でも、物語の流れ自体は追いやすいです。
ドキュメンタリーを耳で追っているような感覚があり、没入感は高めでした。
正直、微妙だと感じた点
ただし、この作品はテーマが重く、人物の思惑も複雑です。
基本はながら聴きでも問題ありませんが、重要な場面では正直、何度か巻き戻しました。
また、結末については好みが分かれると思います。
スッキリした解決を期待すると、モヤっとする可能性は高いです。
主人公が下す最後の決断についても、「納得できる」「違和感がある」と意見が分かれるのは自然だと感じました。
読むのとAudible、どっちが向いている?
個人的な結論です。
・人物関係や背景を整理しながら読みたい人
・気になる表現を何度も確認したい人
こういう方は、紙の本やKindleの方が楽かもしれません。
一方で、
- 感情の揺れ
- 場の緊張感
- 空気の重さ
こういったものを重視するなら、Audibleはかなり相性が良いです。
全体的な作品の感想・まとめ
「震える天秤」は、読後(聴後)に答えをくれる作品ではありません。
正義とは何か、真実を暴くことは本当に正しいのか。
Audible版では、大久保多聞さんの朗読によって、その迷いと居心地の悪さが、より強く伝わってきました。
ストーリーはジャーナリストの嫌な部分が全力で現れています。
私のようにジャーナリストに理解がない人にとっては、ただただ主人公がヤバい男にしか感じられず、終始不快感を感じられずにはいられない作品です。
それを著者が意図的にやっているのかはさておき、途中で読むのを断念する人がいるというのも納得する作品だということを理解した上で読むと良いかもしれません。
派手さはありませんが、聴き終わったあとに、自分の価値観を静かに揺さぶられる一冊であることは間違いなし。
読むかAudibleかで迷っているなら、「感情を体験したいか」「考えながら整理したいか」その基準で選ぶと、後悔は少ないと思います。



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